切通しに入って最初に目に入る右手の扉は兵舎です。隊用語では「棲息掩蔽部(せいそくえんぺいぶ)」と見慣れない漢字で書きます。冬暖かく夏涼しい地下壕です。
厚く漆喰
内部は間口5.2m、奥行き14.5m、天井の高さ4.2mで、ゆったり目のワンルームマンションといったところ。
明治17年(1884年)に作られた当時のままで、ここで兵士たち17、18人から20人くらいが寝起きしました。この地下壕は、総レンガ作りで上から漆喰(しっくい)が厚く塗られています。漆喰は明るさの確保と湿度のコントローのためです。
特徴的なのは天井で、半円形のボールト構造ロマネスク様式とよばれるものです。
兵士の日々を思う
天井を眺めてみましょう。床に入った兵士たちも、連日の厳しい訓練を終え床に入ってほっとした時に、同じようにこの天井を眺めたに違いありません。
若い兵士は故郷の家族を、年配の兵士は残してきた妻や子を思い、眠れぬひと時を過ごしたかもしれません。
明治も昭和もずいぶん遠くなりました。この島で苛酷な日々を過ごした兵士たちは、おそらくもうこの世にはないでしょう。
追体験というにはささやか過ぎますが、兵舎にたたずみ、彼らと彼らの時代に思いをはせるのも、他では経験できない貴重な機会かもしれません。(木)
2020年2月