夏の喧騒が嘘のよう
明治時代からの要塞の島・猿島は晩秋から冬にかけて、ゆっくりと本当の姿を見せます。バーベキューや浜遊びであたかもレジャーランドようだった夏の混雑が嘘のようです。
島に渡って最初の坂を上れば、人影もまばらなひっそりとした切通しが現れます。きりりと引き締まった、あくまで透明な冷気に身が洗われ、思わず背筋も伸びるような思いです。
この清涼感に浸れるのは、この季節に訪れた人だけに許される特権です。
普段は施錠
切通し最初に現れる史跡は右手のレンガ造りの明治時代の兵舎です。
史蹟保護の観点から普段は施錠されていて入れませんが、カギを預かっている横須賀市認定のガイドと一緒なら入れます。さあ、入ってみましょう。
暗い室内。少しかび臭いが、ほっとする暖かさです。ほかのシーズンでは考えられない静寂に包まれます。
じっと耳を澄ませば明治、大正、昭和と激動の時代を見守ってきた漆喰の壁からは、しみこんだ若い兵士たちのざわめきが聞こえてくるようです。
歴史に思いを巡らしながら、無人島を静かに楽しむには、冬こそがおすすめの季節なのです。(木)
2019年11月