◆大葉夜叉五倍子
難読の横綱級
固有名詞は時に覚えにくいことがあります。ですが、印象深いものは別です。一瞬で心に刺さった人の名(良くも悪くも)は忘れられないのと同じでしょう。
オオバヤシャブシ(大葉夜叉五倍子)も漢字を見て一回で覚えてしまいました。名前のおどろおどろしさに加え、音読みと漢字の数が合いません。そのうえ思いがけずに可愛らしい果穂。印象的です。
やせ地でもよく育つので、砂防や緑化に種子がまかれたりしたこともあるようです。猿島では亥の崎の8cm高角砲座近くに樹高5~6mに成長したものがあり、秋になると写真のような果穂を観察できます。
死語の鉄漿
日本では奈良時代から既婚女性はお歯黒(鉄漿)と称して歯を黒く染める風習がありました。平安末期以降になると女性ばかりでなく、貴族階級の男の間にも流行りました。
明治政府がチョンマゲとともに禁止するまで続いた風習です。歯並びの乱れ隠しや口臭、虫歯の予防にも役立ち、美容と健康の一石二鳥だったようです。
そのお歯黒の色付けには五倍子(ふし:ヌルデの虫こぶ)粉という材料が使われましたが、代用としてタンニンを多く含む大葉夜叉五倍子の果穂も使用されたといわれます。
大葉夜叉五倍子は先駆種の仲間で、やせ地でもよく育ち、伊豆大島の溶岩原などには広大な群生もあります。ただ最近は花粉がアレルギーの一種になるという事が分かり、住宅近くでは敬遠される場面もあるようです。
人間の都合でチヤホヤされたり、一夜明ければ嫌われものになっていたりと、樹木も大変です。(木)