◆煉瓦の芸術
カギは廃藩置県
猿島の史跡を印象付けるのはレンガ(煉瓦)ですが、猿島のそれは黒いのから白っぽいのまで混然としています。
そのため大トンネル内の壁などは不規則なモザイク模様を見せ、芸術的なまでの味わい深い光景を作っています。
一般的に煉瓦といえば赤。東京駅も横浜の赤煉瓦倉庫も鮮やかな赤1色ですし、ホームセンターで売っている煉瓦も大体が真っ赤です。
なぜ猿島の煉瓦は色が変わっているのか。その秘密を解くカギは侍、明治維新の廃藩置県で大きく運命を狂わされた侍にありました。
士族煉瓦
ところは名古屋、西尾藩や刈谷藩などの複数の藩の藩主たちが廃藩置県で禄を失った侍の為に失業対策として、煉瓦やセメントを製造する「東洋組」と呼ばれる授産組織を作ったのです。
その“会社”で、職人の指導を受けながら侍が煉瓦を焼きました。侍が焼いたので「士族煉瓦」と呼ばれました。
煉瓦は1000度前後の温度で焼成すると赤い標準的なものとなりますが、高温で焼き過ぎると黒く硬くなり、低温だと白っぽく柔らかいものとなります。
焼成技術が未熟だったのか窯の完成度が低かったのか、その両方だったのか分かりませんが、焼成温度のばらつきによって色の違う煉瓦ができてしまったようです。
おかげで私たちは他のところではほとんど見られず、再現も難しい貴重な“偶然の芸術”を目にすることができる、という次第です。(木)
2022年7月