甘い香りにうっとり
ある年の9月初旬のこと、猿島をガイドしておりますとうっとりするような甘い香りが漂ってきました。おやおやとあたりを見回したのですが、残念ながらそれらしき御婦人の姿は見当りませんでした。
不思議に思いつつ歩を進めると、つる草が茂る卯の崎や大輪戸台場跡のあたりで、白い小さな花が群れて咲いていました。センニンソウ、それが犯人でした。果実から伸びた長毛を仙人のヒゲにたとえて名付けられた有毒植物です。
多年草で8月から9月にかけ、行く夏を惜しむかのように咲き誇ります。この花の香りが厳しい残暑の中にも秋が近いことを教えてくれます。
感覚を研ぐ
人には五感がありますが、外から受ける刺激の80%は視覚からだそうです。
ということは、逆に言えばそれ以外の感覚を働かすと普段とは少し違った形で自然を楽しむことができる、とも言えます。
前記の例は嗅覚つまり香りです。西洋ではマドレーヌの香りから一瞬に子供の頃の記憶があふれるように湧きあがったという、「失われた時を求めて」の“プルースト効果”が有名です。
日本では、香りの鑑賞を「香道」という芸道にまで極めました。私たちはそんな繊細な感覚をDNAとして持っているはずです。
猿島散歩でも、普段はあまり意識しない香りへの感覚を研ぎ澄まして楽しんでみてはいかがでしょう。(木)
2020年9月