◆隠れトンネル
小さな入り口
「人に捨てられた孤独の水たまり」と太宰治が書いたのは津軽の十三湖。この小隧道も人に捨てられた感いっぱいです。
小隧道はラピュタの雰囲気の三叉路の南端に、薄暗く小さな入り口を開けています。島を一周しようとする一筆書きルートから外れる不便なところ。
若い人がコスプレ撮影の背景にしたり、時々好奇心の強い人たちがおずおずと通ったりするくらいです。
いつも寂しそうです。ツタやシダをまとい、ひっそり隠れるようにたたずんでいる姿が印象的で、私は心中秘かに「隠れトンネル」と呼んでいます。
明治期の通路
幅が2m余、長さ12m~13mほどのごく小さなものです。中には明かりもなく、人がすれ違うのもちょっと難しいくらいで、足元はいつもじめじめしています。
市の調査報告書を引用してみましょう。
「この小隧道は島の東端部の平坦な土地に至る交通路に連結している。猿島砲台建設以前に近接防禦砲台の設置が検討され、将来建設される予定の砲台への交通路として建設されたものと考えられる」
つまり明治期は三叉路から海側へ抜けるために掘られた隧道ですが、昭和になって弾薬庫を打ち抜いて新たな通路にしたため、無用となったものです。
時間に取り残されたような不思議な感じの小隧道、私はなぜかここが好きです。(木)
2023年3月